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『いらっしゃいませ』より『お帰りなさい』

石井さんトップ写真

 

吉里吉里海岸近くの宿泊施設「ホワイトベース大槌」を運営する復興まちづくり大槌株式会社で、取締役を務める石井さん。同施設の運営だけでなく、もっと多くの人に大槌の魅力を知ってもらいたいと、さまざまな観光イベントを企画して故郷を盛り上げている。

 

ホワイトベースの宿泊者の9割は復興工事に携わる建設関係者で、ほとんどが長期滞在者だ。県内外から訪れ、大槌学園新校舎や災害公営住宅など、新しい大槌を作り上げる現場で汗を流している。滞在期間中の生活を支えるには、一般的なホテルとは違った工夫も求められる。例えば、日々の食事は飽きられることのないよう「なるべく家庭の味を意識したメニューを提供している」。石井さんの好物でもあるカレーライスが一番人気という。

 

宿泊客のため、常にサービス向上を心掛けている。ホワイトベースの強みについて、「『いらっしゃいませ』より『お帰りなさい』」と表現。家族のように朝は送り出し、夜は出迎える。安心できる癒やしの空間。復興工事現場の寮などでは、2人一部屋だったり、1人でくつろげる時間に限りがあることも。「ホワイトベースは全室シングルでプライベートな時間が守られ、気を使わないで過ごせるところも強み」。

 

 

 石井さん写真2

 

オープン当初は、利用客から震災当時の町内の様子について尋ねられることも多かった。「最近は以前よりは聞かれなくなった」といい、「復興が進む中で、皆さんの意識が震災当時のことよりも、今後の復興に向いているのではないか」と感じている。

 

故郷を盛り上げる活動にも熱心だ。もっと大槌のいいところを知ってもらおうと、大槌湾カレイ船釣り大会などのイベントを企画・展開している。「震災後、もう泳げないと思われていた海への関心、意識を変えていきたい」。船釣り大会は、今年6月に第3回大会を開催し、町内外から約140人が参加。釣りはもちろん、魚市場での交流イベントも大いににぎわい、大槌の海の魅力を発信するイベントとして定着してきている。

 

栄町出身の石井さんは高校卒業後、就職で一度は地元を離れた。それでも、関東で毎年開かれている大槌町出身者の交流会「ふるさと大槌会」には参加し、大槌とはずっとつながっていた。

 

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5年前の東日本大震災。まだ情報も交通網も混乱している中、発生4日後には駆け付け、震災直後の故郷を目の当たりにした。がれきが山積し、山がくすぶっていた。母親の世話をしながら、行方不明の親戚や知り合いを探すため、遺体安置所に通ってブルーシートをめくる日々を過ごした。「自分に何ができるかまだ分からない。でも、もっと関わらなくてはいけない」。これから自分はどうすべきか、自問自答した。

 

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2週間ほどで東京に戻った。「ふるさと大槌会」を通じて募金活動や、震災状況を伝える企画展「リメンバー大槌」に携わるなど、故郷のため精力的な活動を続けた。「地元で復興のため尽くしたい」という思いが募る。しかし、そのためには仕事を辞めなくてはいけないし、家族も不安にさせてしまうと思い悩んだ。なかなか踏み切れないでいた時、復興まちづくり大槌株式会社のスタッフを募集していることを知り、Uターンを決意した。当時の心境を「これからの大槌のために自分に何ができるのかまだわからない。でも、自分の力を役立てたいと思った」と振り返る。

 

故郷に戻り、復興のため奮闘する石井さん。今後の大槌について「家族連れで出掛けられる場所、名物料理や商品を販売・提供する店がもっと増え、多くの人が集う町になってほしい」と願う。「町とまちづくり会社が主体となって新しい産業を立ち上げ、雇用や所得を増やしていければ、大槌に住んでみたいというU・Iターン希望者も増えるのでは。新しい産業の育成、起業ができればいいなと思う」と展望する。

石井さんプロフィール写真

石井 満(いしい みつる)さん

 

高校卒業後、NTTや出版社に勤務。震災後に大槌町にUターンし、現在は復興まちづくり大槌株式会社取締役。趣味はテニス。郷土芸能の向川原虎舞に昨年復帰し、活動している。

 

 

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